秋山:ぼくは、ノートを作っているんです。ぼくのアイデアのヒラメキを記述したノートがありまして。イラストレーションのアイデアのヒラメキなので、この本とは若干切り口が違ってくるけど、共通する点は多いので、ここへ来る前に目を通してきたんです。自分で考えたアイデアでも、忘れてしまうことが多いので。
そうやって振り返ってみると、「1989年、ほんといいこと考えていたなぁ」と改めて思うところがあって。20年前に「アイデアとは何か?」ということを考えて、書き始めているんです。70年代頃から考えてはいたんですけどね。89年というと、福井さんは何歳くらいですか?
福井:そのころだとまだぼくは高校生くらいです。先生はそのときが一番閃いていたときですか?
秋山:一番混乱していた時期だと思います。頭の中が混乱するからこそアイデアを出すわけじゃないですか。でもすぐに良いアイデアが生まれるほどぼくの脳はそんなに優秀じゃないと思うんです。
ようするに組み合わせが美しいかどうかということだけなんです。悪い組み合わせを考えてしまえば、それはつまらないアイデアになってしまう。しかし良い組み合わせになったときに、ものすごく面白いアイデアが生まれる。それを日々模索していくわけですよね。さらにその組み合わせが、ぼくにしか生み出せないオリジナルのアイデアでありたいんです。人の借り物ではなくて。
自分のオリジナルであるということに対する執着心がぼくにはあって、それが重要だと思うんです。そうでなければぼくは価値を見いだせません。すなわち芸術的な、あるいは美しいアイデアを求めているんです。つまり、人間には美意識があるでしょう。ぼくはこういう風に生きたいんだとか、それがあるからこそ、エネルギーも湧いてくるわけだし、それがないと行動力の原点にはならないんですよね。
その行動力の原点を確かめたくて、「ぼくのアイデアってなんなんだろう?」って自問自答することで、それを解明したかったんです。
福井:完全な解明はまだなんですよね?
秋山:完全な解明ではないけれども、こういうものだなというのは自分の中にありますよね。ようは、ものを選ぶということが重要です。選ぶには、偶然というものもあるけれど、そこには自分の責任が存在して、その中で選択するんです。
そういうことの連続で自分の運命が決まっていき、その過程で選択して熟考するわけです。ぼくが興味を持っている人だとか、心を打たれた言葉だとか、そういうものがものすごく大事なんです。
福井:言葉もなんですか?
秋山:言葉も大事。言葉が美しくなければそこに感動は存在しないんです。つまり真実感があるということが重要です。だって嘘っぽい人と会話をすると、腹立たしいですよね。でも我慢して、仕事のためだって割り切って付き合います。
福井:先生の目からみると・・・ということですね
秋山:そうです。たとえば最近の女性を扱う広告写真などは、シミとかを全部消していますよね。「シミとかシワはそんなに汚いものなのか?」とぼくは思うんです。そうなると有名な画家の描いた老婆の肖像画なんかを見ても、そういう部分を汚いと思うのか? と考えるんです。年をとればみんなシワができるじゃないですか。顔中シワになったりしますよね。
でも、ぼくたちは、その顔を見て、このシワはどうしてできたんだろうという裏を考えて、心を動かされるわけなんですよ。ところが、女性を扱う広告写真は、整形美女みたいな女優が登場して、コンピューターで修正されているわけです。そういったものには騙されたくない。
ところが、女性は騙されてしまう。かわいくいたいから。かわいいということはすごく重要で、日本で使われる「かわいい」という言葉って、すごく奥が深いんです。従来の「キュート」や「チャーミング」なんて意味を超えた言葉ですよね。
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