秋山:この「かわいい」って言葉。たとえば、小さなものを見て「きゃーかわいい」、大きな建物を見ても「かわいい」、おじいちゃんを見ても「かわいい」って言うじゃないですか。すごい幅の広い言葉ですよね。
「かわいい」という言葉の中に、共通する「美」のようなかわいらしいものがあるのではないかとぼくは思うのです。しかし、あまりにも「かわいい」という言葉に幅がありすぎて、混乱しそうなんですね。でもそう言う意味での「かわいらしい」というトリックはすごいと感動するんです。それは不思議なもので、心が妙に明るくなる力があるのではないかと思うんです。
そういう日本語ならではの幅の広い意味合いの言葉を使って、みんなを騙しているわけなんですよ。本質は見えていないんです、ただ直感でしか動いていない。直感や感情は、あるとき冷静さを失わせるものなんです。例えばここにあるたった一枚の紙が憎たらしく思えてしまう日常だってあるわけです。
つまり、ぼくが言いたいのは、たった一枚の紙からでも、感情は動いてしまうということ。それは本質ではなくて。感情で動いてしまって暴言を吐いてしまうこともあります。だから、ぼくはいつも反省するわけです。
福井:先生ほど本質を見抜いてるのに、感情の部分では(笑)。
秋山:いつも負けてますよ。人間って気づいているようで、気づいていないことの方が多いんです。気づいてるって思ってるだけなんです。福井さんもまたそうだと思います。
ノートに書いて、これは違うこれも違うと模索しながら、いい組み合わせを探しているんです。あらい落としやふるい落としと一緒だと思うんです。ふるいにかけると商品としての価値が上がって、価値のあるものになってくる。それは整理されたものだから。だからアイデアのヒラメクを読んでいたら、福井さんは、整理している人なんだなと思ったんです。
福井:ちゃんと記憶ができないので、パーツとしてわけないと、頭の中に残らないんです。
秋山:ぼくたち脳の中には、生まれる前からの記憶が存在するんです。親の遺伝子があるわけで、それは記憶じゃないですか。さらにそれ以前まで遡れば、何百年何千年前の記憶が存在するんです。
記憶は山のようにあるんだけど、記憶を出すときって、何か強い衝撃がないと出てこないじゃないですか。興奮したりしている時にすごく強い刺激とかがあると、いいアイデアがでてきたりするんですよね。
福井:あっ、そうです。そういう状態がたまに訪れます。
秋山:そういったハイな状態っていうのが、創造にはもっとも重要なことで、それを美的直感とかっていうんです。これをだれが言ったかが非常に重要で。これを見つけるまですごく時間がかかったんです。これを理解しないと、アイデアを理解することはできないんです。それについて深く追求した人がいて。誰かというと。
福井:まだまだぼくも勉強中なんで。
秋山:ああ、そうだ、ジュール=アンリ・ポアンカレだ。1854年生まれで1912年に亡くなった数学者です。位相幾何学の分野では、トポロジー概念の発見や、ポアンカレ予想など、重要な活躍をした人物です。
また、フックス関数と非ユークリッド幾何学との結びつきについての数学的な発見をした際、その過程の詳しい叙述を残して、その後の数学研究の心理学的側面の研究にも影響を与えました。彼の著書の「科学と方法」の中で、結合の重要性とその中で必要な直観の美について語っているんです。
科学と方法―改訳 (岩波文庫 青 902-2) ポアンカレ(著), 吉田 洋一(翻訳) 岩波書店 1953-10 Amazonで詳しく見る |
ようは、どうして気づくかということなんです。その時の、アイデアが閃く高揚感が重要です。
たとえばアルキメデスが浮力の原理を発見したとき「ユウレカ」(「わかった」)といったんです。その瞬間、なんて美しいんだろうって思いました。それは脳がある瞬間、ひらめきの高揚感と共に素晴らしいアイデアが出るとき、美的であるのです。たとえばスポーツ選手が想像以上の能力を出す瞬間のようなもの。本人の能力を飛躍的に超える瞬間。ぼくたちのアイデアが出る瞬間も同じように思うのです。
福井:アイデアはそういうときも有りますし、まったく脱力しているときも出ることがありますね。ボーっとしている瞬間ですとか。
秋山:それはすごく重要です。トイレとかお風呂に入っているときとかです。お手洗いはすごく重要。なぜかというと、力も入るけど、全部の力を抜くという本能があるからなんです。全部の力を抜くことによって、次にものすごく力が出てくる。今日は、ぼくはリラックスしてないからだめですけどね。
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