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秋山:アイデアって、芽を育てないといけないっていってるでしょう。これは重要だなって思うんです。

ぼくの好きな人物で、今和次郎(1888 - 1973)という考現学の祖と呼ばれている人がいるんです。考現学という学問は、民族学から出てきたもので、今そこに現れている現象を観察し、スケッチし、記録し続ける。定点観測です。するとその時代が浮き彫りになるということですよね。それが考現学の考え方。

彼はまた少し特殊な人物で、井の頭公園に住んでいたんだけど、当時の井の頭公園ですごく首吊り自殺をする人が多かったんです。それで彼は、首吊り自殺の分布図を作った。1925年から1927年に死んだ人は何人いたかって。そんなことを調べながら、いい答えを見つけ出して、次第に学問の祖と呼ばれるようになったんです。

これを知ったとき、「ぼくにもできるな」って思ったんです。ぼくも研究ができるって。つまりアイデアって「これなら僕でもできる」って思えることが重要なんです。それがアイデアの第一歩だと思う。その日会った人の靴を毎日描き続けるとかね。今日会った人たちの髪形を調べて残しておくとか。それには絵で描いて残す方がいいんです。写真で撮ったり、言葉にするのとはまた違うんですよ。

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藤森 照信

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福井:ようは、頭の中に一度インプットされないといけないということですよね


秋山:そうなんです。絵で描くのって大変ですからね。絵のよさってそこだと思うんです。それで絵をひたすら描くんです。そうすると「ぼくってなんだろう」って、また疑問が出てくる。ただ馬鹿みたいに描くだけでも。それで、1980年に描いた絵、1989年に描いた絵、それらを全部並べると、自分の何かが見えてくるんじゃないかって思ったんです。この頃は、年間1000点以上描ていたんです。その当時のぼくには、仕事をし始めたら休むな、という哲学があった。(今は違います)

それらを見ていると、いくつかの法則があったんですよ。その一つがヒドラの法則というんです。ヒドラって、ギリシャ神話に出てくる蛇で、巨大な身体に頭が九つあるんですけど。まあそうやって、考え続けるんです。すると、たまに想像を絶するアイデアが出てくる。そのために、まず絵をいっぱい描いてみないと分からないんです。

例えば、ぼくの絵の中から、福井さんにぴったりくる絵を選ぶとするじゃないですか。でも急には出てこないから、日夜考えるわけです。自分が書いたたくさんの絵の中から、ぴったりくるものを発見しないといけない。何万点描いた絵の中から、福井さんにもっとも合う絵、福井ベストを探すんです。

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