福井：で、僕の仮説のもう一つが、先生のおっしゃるその「美」というのもが凄く大事で、結局「美しい」という心が動くこと。組み合わせの冥利で心が動いたということに関して脳が記憶をしている筈で、脳がその時に考えたんだけれど、実は脳はその時に「お、凄い」っと記憶スイッチを恐らく押していて、美しくないものには恐らくスイッチを押していないじゃないかなと。夢のように全部忘れていく。

秋山：だからポアン・カレは「美的直観」って言ったんですね。

福井：なるほど・・・。美的直感ですね。

秋山：美は解読するのは難しいし、直感もまあ解読していくんですけど・・・美的直観と結論付けたんだね。

福井：先生が「美」にこだわっているというのは、芸術家だからですよね。でも普段のことって芸術だけじゃなくて、人とのコミュニケーションもありますし、そこにも先生は恐らく「美」を紐付けるんでしょうね。女性の美にも。

秋山：女性の美を見て、美しい人は美しいと思うよ。（キリッ）

福井：ちょっと嫌な振りをしてしまったかも。（笑）

秋山：ハッハッハ！（笑）ルネサンスの絵画というのはね、理想だったんです。理想を探したんです、女性の。ずっとね。もっと前は神様はどういう顔をしているんだということを探していたんです。

福井：なるほど。

秋山：キリストの顔を誰も見たことはない。布に写った顔、聖骸布ですね。それをもとに今のイエス・キリストの顔が描かれた。ルネサンスの美の神を描くときに、女性の最も美しい理想の顔はこれだと、ボッティチェリのプリマヴェーラとか、ヴィーナスの誕生、これが美しいんだと。

だから福井さんの結婚式の時に奥様に対して言ったのは、言葉足らずでしたけど美しいのは類似していると。（福井：笑）そういうことなんです。ところがね、その後バロックの絵が生まれた時に、今度はそれじゃいかんと、もっと歪んだデフォルメ顔がいいんだっていうのがバロックです。バロックって「バロッコ」っていう「歪んだ真珠」という意味なんです。だからマニエリスムやバロックの顔になるとキリストの顔がひゅーっと細くなったりするわけです。

スペインのエル・グレコの描いた絵のようになる。だから私の女房はエル・グレコが描いた絵なんて嫌いと言うんですけど、それはあなたが美と感じていないだけで・・・そこには新しい美や発見があったりするんです。

その後にまた新しい美が出てくるんですけど、カラヴァッジオが出てきたときは、真実は何なんだろう、美の真実とは何なんだろうと、彼は突き詰めていくんです。彼のキャラクターはハチャメチャだから、喧嘩すればむかついて、逃げ惑いながら絵を描いたりするわけです。でも美に対するパッションのほうはもの凄いわけ。彼は美しさというものはもっとリアリズムで、生きている人を描かなきゃいけないって。若い娼婦を連れてきて描いたわけです。娼婦は夜なので蝋燭を持って。蝋燭の光で顔をぐわーっと描いた。

福井：昼でも暗くしたわけですか？

秋山：昼はもう酔っぱらって遊んでるから（笑）夜に描くんです。蝋燭の光。太陽の光じゃなかった。ところが、教会の人が司教に密告して・・・「おい、やめてくれ、娼婦を使って描いて、あの女だろう、あんな薄汚いのが何でマリアになるんだ！」と大喧嘩になった。それが彼なんですよ。

福井：ほう～。

秋山：かなりやさしく語りましたけど。それで、かのリアリズムが生まれたわけ。それで200年間、彼は評価されなかった。死んでから、みんながカラヴァッジオはいいと言い始めて、例えばルーベンスなんかが「やっぱりカラヴァッジオを見なきゃ」と言って、それが評価されたんです。全部がプロフェッショナル、限られた天才たちが言っているわけなんです。

　

福井：ふむふむ。

秋山：天才たちはみんな苦労しています。レンブラントなんかもそうですけど、変人で貧乏になって死んでいったんです・・・世界全体が「これだ！」となるまで200年掛かるわけですから。

福井：今の話は美の歴史についてですね。

秋山：美の歴史について・・・ですけど、アイデアも凄いでしょ。娼婦をモデルにした絵画を教会に展示するなんて。

福井：ああ！それは・・・確かに。

秋山：だって、カラヴァッジオ、レンブラント、二人とも神を信じているから。それは聖母が娼婦に乗り移ったという概念です。そういうところから発見出来る様々なものを描いていますね。