秋山:それでは、今回は福井さんにインタビューを。前回のタイトルに続き、第2回目の「ヒラメク」のインタビューとなります。いよいよこの第2回に入るまで、いいものが出て来ました。僕もその後に入院なんかをしながら、いつも脳みそなどをわずかに動かしながらいろいろと考えてきたんですが、この二人の対話は素晴らしいものになるに違いないと思います。では復習からいきましょう。
福井:はい、よろしくお願いします。
秋山:前回は、ヒラメクとはどこからやってくるのか?そしてそれは誰がその研究をし始めたのか?果たして、それはどういう考えであったのか? ということを話し合いながら考えてきました。そしてそれぞれについて答えを導き出していこうとして、ある結論が出てき始めました。そのようなところからスタートさせながら、その後、福井さんは数年間にわたって「ひらめきのメカニズム」を丁寧に研究されて、その答えを導き出すために弛まぬ思考作業を継続されてきたわけですね。で、今日は久方ぶりの対談なので少しばかり前回のおさらいをしてみますと・・・。
ヒラメクということは、例えば科学者の間でも非常に重要で、政治家などの間でも政策を発案したり、決定する上で重要と認識されていますし、医学などあらゆる分野において、重要な発見(の源)なんですね。これがどこからやってくるのかということを科学的に考えようとした人が、アンリ・ポアンカレです。
彼は1854年に生まれたんですけれども専門は数学者で、位相幾何学の分野ではトポロジー概念を発見したり、ポアンカレ予想というものを生み出したんです。その中に『科学と方法』という本がありまして、その序文の中に、こういうことをやろうとして考えた結果、やっぱり分からなかったと。しかしその中で閃いていくことということは非常に重要なことで、それが何処からやってくるのか証明出来なかったというようなことを彼は言っているんですね。そして、また有名な話ですが、アルキメデスです。アルキメデスが風呂の中でぼやーっとしているときに、パーッとひらめいて浮力の発見をしたときに「ユーレカ!」と叫んだ。「これだ!」と言った瞬間があるんですね。その瞬間とは何か?ということなんですね。これはスポーツ選手でもそうですし、アーティストでも科学者でも、政治家でもビジネスマンでも同じなんです。
そしてジェームズ・W・ヤング(1886年?1973年)というアメリカの広告代理店トンプソン社の常任最高顧問だった人がそういったことを分かり易い内容にまとめるかたちで本として書きました。その本を僕は先に読んでから、このポアンカレという人物の書いた本を読んだんですね。但し、このポアンカレの本は難しすぎて、これを読みこなす人は殆どいなくて数パーセントですよ。(笑)つまり科学者の書いた本を一般の人が(楽しく)読むわけにはいかないんですね。何故分からないかというと、つまり、まず始めに実は「前段階」があるんです。その「前段階」を飛ばさないと本そのものが分厚くなってしまうので、科学者や哲学者たちが自分たちの生きている「前段階」、例えばSPA(ソクラテス・プラトン・アリストテレス)の言説のことをまずおいて置いて、いきなりその次の哲学の分野からスタートさせるんですね。
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中世から近代、そして現代と。そうしないと本題の今になかなか辿り着けないじゃないですか。(笑)そういう意味合いで、最初の一行から読もうとするとなかなか次のページに辿り着けないなんてお話になるわけです。でも我慢して読むということが読書の大切なところで、我慢して読むといいキーワードが見つかってくるんですよね。そこにじっくりと赤線を引いたりする余裕も出てくる。
福井:なるほど。
秋山:まずそこで話をちょこっと飛ばさせてもらうと(笑)、僕は「速読」なんていうものは信用しないんですよ。あんなものは実は本を「読む」ことになってはいないんですよ。何故ならば、本を書く作業で考えると(本の著述で)一行を書くのに10分で書けないんです。それを裏を取って考えていくと一行を書くのに裏側で物凄い時間を費やしている。それをそのような裏も読めずに飛ばしてしまう速読なんてあるわけがない。ただ眺めているだけです。そしてそのこと自体はまったく重要ではないんですね。ですから僕たちが、福井さんと今回「ヒラメク」というたった一つのことを取り上げても、モノゴトを考えている内にじっくりと時間を掛け、1年を経て2年にわたりお酒も飲みながら話し考えていくうちに今日のようにひらめきが生まれる良い時間が再びやってくるというわけです。だからこそ敢えて畏まって話をさせていただこうと。
福井:はい!
秋山:前回、福井さんがこのヒラメクこと、様々なアイデアを紙に書いて「あ、こういう流れでヒラメクんだ」ということを整理していきました。そこで脳でヒラメクというのは手を動かして「手で書く」ということ、スケッチしたり、図面を描いたり、分からないときは絵、ある時は文字、ある時は殴り書きでも傷を付けるように書いているうちに何かヒラメキがグーッと来るということ、これが大事だし、脳が猿から人間に変わってきて発達したのは人間が手を使ったんだということがよく言われていますし、それは確かだと。つまり危機感を感じた時にアイデアは出るものだと。荒野を二足歩行で歩いてきた。遠くに行かなきゃと!食べるものも無いし、何も無い!こっちは豊かな森があって木にしがみついていれば食べられる。しかしこの危機感を得た人たちが歩くことを覚え、そして手で物を作ることを徐々に覚えてきて、脳が徐々に成長してきて、それはどんどん北上し、南から東を経てもっと北上し、ぐるーっと廻って日本までやってくるんですね。そんなふうにして、人類の変化と脳の変化がある。でも北の方を廻ってきた人のほうがどうもロジックを獲得してきたように思えてならないんですよ。
福井:ほう!なるほど。
秋山:何か障害があったときのほうが豊かな発想になる。何か問題があったほうが解決するのに、つまり危機感があったときのほうが=生きるか死ぬか食べられるかみたいなものがあって、そして脳が成長してきて、グッドアイデアが浮かぶ。つまり相撲でいうと覆い掛かって、激突してこれは簡単にやっつけられると思ったら、自分より格下力士が、例えば若乃花(先代)と栃錦が対戦して、グーッと押されて土俵に足が掛かった瞬間から、パーンと脳にひらめいてある技が出てきて、勝つんだと。これは強者と弱者との戦いの時に必ず強者は自分が強いんだと考えるのだけれども、弱者は危機になってからアイデア=技を工夫して、ハイレベルな技でさっと肩の力を抜いて上手投げや下手投げをするわけです。その姿はまさに美しい。なんて美しい力士なんだろうと。まあ飛躍したお話になってしまいましたが(笑)、ではではそんな観点から、福井さんが考えたことを少し聴かせてください。
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