福井:今のお話でいいますと、「危険がひらめきを生んでいる」ということですけれど、結局、前回先生とお話した通り、ヒラメキの前に意識の中に記憶が形成されていると。その形成をされる時のプロセスとしては、恐らく危険であったり、楽しいであったり、感情が起伏する?プラスにも働くマイナスにも働く?そういったものと記憶がどうもシュリンクしているんじゃなかろうかと。そして僕が実際に「アイデアってどうしたら生まれるんだろう」と研究する前に、まず何も文献も読まずに、それを書き出したんですよね。
ただ今のような脳の働きについては、何かヒントがあるんじゃないかと思って、唯一目を通したのが、この『海馬』(池谷祐二著)という本でした。
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まさに脳の記憶を司るのがまず扁桃体といって、そこで感情を作り出すと。まさにその「危険」というところから生物は、それをどう回避するかということを「学習」していくわけですね。そこから人に進化していくうちに愉しさであったり、嬉しさという感情と記憶を繋げていく。その記憶がどのように頭の中に残って、今度それを引き出すときにどういったことが行われているんだろうということが、この本の中では非常に面白い視点で書かれています。じゃあアイデアと繋がるところって何なのかなと考えたときに、一つ面白いのが脳が常にだまされてしまうということがあると。
例えば「だまし絵」などで斜めを向いていないのに斜めを向いているように見えるとか、そういった遠近感のだましだとか、だまされるっていうこととアイデアが実は何らかの関係があるんじゃないかという発見をしたんです。その部分と先生が先ほどご紹介いただいたジェームズ・ヤングの『アイデアの作り方』という本、これは72年も前に書かれたものですね。実際に書籍としてはたった60ページくらいしかない非常に薄いシンプルなものなんですが、恐らくアイデアについて考えたことがある人は何らかの形でこの人の考え方に影響を受けているんだろうと。
で、僕はその時「アイデアは、既存のアイデアの組み合わせで出来ている」ということについて、他の書籍でも同様の表現がされているし、先生もそのような言説でいらっしゃるし、自身でもずっとその通りだと思ってきました。しかしその言説とこの『海馬』での「だまされる」という内容が繋がってきて・・・「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」と。* (*「アイデアのつくり方」阪急コミニケーションズ 今井茂雄訳 P.28より引用)
ただ本当にヤングの言いたかったことと、それは実は違うんじゃないかなと感じてきていまして。どうもこう書いてきたことで多くの人がだまされてきたんじゃないかなというのが今回の仮説なんです。じゃあどうだまされていたんだろうというときに、本当はこの既存の要素とアイデアという風に表現した方が恐らく本質に近かったんですけれど、そういう数式ではなく、文字でシンプルに表現されていたので「アイデア」×「アイデア」となるわけですよね?
この「アイデア」×「アイデア」になったというのは、僕もまさにそう信じていたので、その典型が、この「携帯電話」を例に取ると「だまされている」ことに密接に関わっていると。これってカメラがここに付いて、写真を撮影出来るわけです。そういった(機能が付いた)携帯電話なわけですが、じゃあ「カメラ付き携帯」っていうアイデアがあるとすると「カメラ×携帯」という、アイデアとアイデアが掛け合わされていると。他にもテレビも見られるなど、電話以外の様々な機能が付いています。特に日本人はそういった様々な機能を埋め込んでいく、追加していくという作業が得意なので、製品もどんどん進化していくわけですね。
秋山:なるほど。
福井:ただ・・・本当にこの携帯にカメラが付いているんだろうか?ということが、知りたかったことです。結局、この「携帯電話」というのは「携帯電話」でしかないんだろうなと。たとえアイデアとしてのカメラというものと、この携帯を組み合わせたとしても、「カメラ」そのものにはならないなあと。あくまで携帯電話ですと。じゃあ、どうなっている?というところが、僕の中ですごく興味を喚起された部分でした。もしかしたら、だまされていると考えたら、どうだまされているのだろうというところに行き着いたんですね。 それで、もしかしたらこれが究極的には新しいアイデア×アイデアという時に組み合わせる「アイデア」は、実は一つしかないんじゃないかというのが、たまたま「小作」というほうとう屋さん*でほうとうを食べているときに浮かんだことだったんです。 *ほうとう小作http://www.kosaku.co.jp/
「カメラ付き携帯」って何なんだろう?とその時に改めて考えてみたんです。じゃあカメラというのは頭の中でどう変化しているのかと考えると、あくまでこれは携帯電話にカメラというものがくっついているのではなくて、写真を撮影する機能がどうやらそこに付けられているということじゃないだろうかと。
秋山:うんうん。
福井:同じようにカレンダーや電話機能なども付いているんですが、カレンダーとはつまり「スケジュールを管理する機能」のことであって、これに日めくりカレンダーみたいなものが付いているわけじゃないですし、「オサイフケータイ」もありますが、これも携帯そのもののどこにも「お財布」はくっついていないんですよね。ということはこれは頭の中では、「おサイフケータイ」としながらも「現金を支払う機能が付いている」と脳の中でうまく変換をどうもしているなあと。じゃあ、その脳内変換というのはどういう風に行われているのか?というので、ここに書いてあるものはそれら事例のひとつでしてご覧に入れますと・・・これの一番面白い(事例)のが、「きつねうどん」です。
秋山:あはは。こないだね、ちょっと聞いたやつね。
福井:はい。(笑)「あれ、だまされている」っていうやつです。「きつねの肉」は入っていませんから。油揚げは入っていますが。
秋山:たぬきうどんもね!
福井:ええ。
秋山:それを聞いて、僕も考えたので、その答えをお話ししてもいいでしょうか。
福井:はい!どうぞ。
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